「脱炭素化・茶道・食品ロスをつなげるフォーエヴァーグリーン」
30/06/2017SN
毎年世界が出しているCO2の半分以上が森林や海洋に吸収されずに大気に残り、100年以上吸収されないま ま大気に残る。毎年出し続ければ、大気中にCO2がどんどん増えてゆき、それに応じて温度が上がる。
ならばどうしたら温度上昇をとめられるか?どこかで温暖化を止めたとしたら、その時点でCO2の排出は ゼロになっていなければならない。もしそのあといくらかでも排出したら、その半分が大気中に増え、その 分又温度が上がってしまうからである。科学者は30年かけてようやく、この簡単な事実を確認し、温暖化を 止めるには、CO2を一切出さない脱炭素社会にするしかないことを結論した。
それではどのあたりの温度上昇で止めるか?それはいつか?旱魃、洪水、台風、疫病、熱中症、これにと もなう飢餓、海面上昇の危険が迫る。なんとか耐えられる温度はどのあたりか。石炭などを燃やし始めた産 業革命前から地球平均温度が2°C上がるあたりでゼロ排出にしようと2015年パリ協定の全参加国で決めた。 長い論議の間に既に1.2°Cも上がっており、残り2°Cまで出せるCO2は今の毎年排出量の30年分もない。今世 紀半ばである。それまでにゼロエミッション世界に変えるのが今の若い世代の大仕事である。
この結論は、人間は自然のことわりの中でしか生きられないことを示している。いくら温暖化など嘘だと 呟いてみたり、50年たてば核融合があるから心配ないと(これまで50年も気休めに言い続けていたように) 見て見ぬふりをしていても、自然はかまわず地球を暖め続ける。化石エネルギーに頼る文明はこれで終焉に 向かうがそのまえに文明社会の大転換がいるし、そのための新しい行動基準がいる。
今の時代は大急ぎで化石文明をたたみ、太陽エネルギーの恵みだけで生きられる次の文明に進む時である。 いろいろやらねばならないことがあるが、基本は節エネルギー(エネルギー使用量の絶対値を減らすこと) と自然にゆだねての再生可能エネルギーの利用しかない。この方向がもう抗えない自然のことわり(日本で はその認識が十分ではないが)、と理解した世界の国・都市・企業による、脱炭素(ゼロエミッション、炭 素中立)社会の陣取り合戦がすでに始まっている。 今脱温暖化対策の方向は「モノ」に向き始めた。家庭では節電・節エネルギーが目に見える対応であるが、 実は周りを取り囲む「モノ」「消費材」もエネルギーの塊である。食品で言えば、農地での栽培、畜産飼育、 加工、輸送、商店での保存、家庭での冷蔵庫保存といったサプライチェーンの間でのエネルギー消費は、製 品の中に隠れたエネルギーとなっている。食品ロスの多くを占める家庭や料理店の残飯廃棄は、それまでサ プライチェーンの間に使われたエネルギーをも捨てているのである。最終端の食品消費が10%減れば、サプ ライチェーンでかかったエネルギーがそっくり節約できる。必要なだけ買い込みおいしく食べきることも重 要であるが、流通エネルギーを節約できて新鮮な地元農産物野菜を楽しんだり、残野菜を活用できる地産地 消をもっと進める必要がある。さらに世界が全部ベジタリアンになれば温暖化はほとんど止められるともい われている。
NPO法人フォーエヴァーグリーンは、環境茶道をプロモートする一方、残野菜を用いたカレー開発などで 食品ロスに取り組んでいる。日本発の茶道から「自然に従う」「大切な物を長く使う」「必要な分しか使わない」「無駄のない合理的作法」、「礼節を持った態度で、物事に接する」など一人一人のモラリティ、行 動基準を学びとることができるし、それらこそまさに脱炭素社会の行動基準を先どりするものである。道を 説くだけではなく、食品ロス対策に踏み込んでの社会起業を行うこのスキームは脱炭素社会への引き金とし て期待できるのではないか。
西岡秀三
(独)国立環境研究所特別客員研究員・(財)地球環境戦略研究機関研究顧問
東京大学大学院数物系研究 科博士課程修了、工学博士。旭化成工業を 経て国立環境研究所勤務、東京工業大学教授、慶應義塾大学教 授、IGES気候政策プロジェクトリーダー、国立環境研究所理事を歴任。専門は環境システム 学、環境政策 学、 地球環境学。主に温暖化の科学・影響評価・対応政策 研究に従事。04年-08年 環境省地球環境研究計 画「2050年日本低炭素社会シナリオ研究」 リーダー。 2010年「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ」 全体検討会座長。